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嵯峨倫寛写真展「There is」
"There is" Michihiro Saga solo exhibition
(2017)

日時:2017.04.20-23
会場:ギャラリーチフリグリ

作品解説

 どこかの個展に足を運ぶと、音楽がかかっていることがある。空間を彩る演出として、もしくは作品のコンセプトを強調する為に再生されているのだろう。しかし私は多くの場合、流れている音楽に鑑賞の集中を削がれてしまったり、音楽によって彩られたイメージが絵にも植え付けれてしまい、絵が本来語ることを引き出す手間が増えてしまうように感じる。もし私が誰かの個展で音楽を担当するのであれば、メインの作品鑑賞の邪魔をしない、過度な演出をしない音楽を作曲したいと考えていた。

 ある日、写真家の嵯峨倫寛さんから、個展のための音楽の作曲依頼を頂いた。まずはコンセプトは聞かずに展示予定の写真を拝見させていただいた。普段の嵯峨さんが撮影するカッコいい写真とは異なり、フランクに撮影したかのように角度が付いていたり、ボーっとしているようなメランコリックな印象を受け、撮影する対象も定まっていないようにも見えた。その後にコンセプトを伺ったところ、今回は撮影する手法として、目についたものをすぐに撮影することで、対象に構図を付けて演出するのではなく、演出する前の良さが失われないうちに記録していったそうだ。そのようにして集められた数々の写真は、嵯峨さんが暮らしてきた生活の一瞬一瞬を切り取った、語り継がれること無い思い出のように見えた。
 そこで私は、個人的な思い出の音を作曲の素材として使用することに決め、ラジオ放送を選んだ。それは私の思い出の音だったからだ。高校生の頃によく聞いていた音楽を久しぶりに聞いて、部活の風景や教室の匂いや暖かさがフラッシュバックした経験があなたにもあるだろう。2016年に私はラジオ放送をよく聞いていた。ラジオ番組から聞こえてくるジングルやBGM、アナウンサーやパーソナリティの声は2016年の生活がフラッシュバックする私の個人的な思い出の音なのだ。

 音楽は既に作曲したものを再生するのではなく、リアルタイムに変化していくものにした。リアルタイムに放送されているラジオ放送の音声を受信し、それをコンピュータで録音し、6台のスピーカーに分配した。音楽の展開の時間は予めプログラムしておき、どのようなラジオの音声が入力されても良い状態にした。
 音楽の展開として3つのモードを設定した。1つ目は、ラジオ放送を1つのスピーカーで再生しながら録音し、録音が終わると、まだ録音がされていないスピーカーをランダムに選択し、再生&録音を行い、全てのスピーカーに新しい録音を行うモード。2つ目は、1つ目で録音した音をそれぞれループ再生することで、人の声や音楽が様々な方向から聞こえ、商店街の中に居るような音響を作るモード。3つ目は、1つ目で録音した音の頭を短い時間で切り取り、ランダムにビートを作り再生するモード。6つのチャンネルのうち1つは、1つ目の展開と同様再生&録音を行った。この3つの展開を常にループしてリアルタイムに音楽を作った。

 録音された音にはエフェクトを施すことを避けた。録音した音を音響処理によって複雑に変化させることはいくらでもできるが、今回は常に変化していく音として聞かせたかったため、そのままの音を再生という方法を取った。そのため、鑑賞者がラジオのアンテナに近づくとラジオの電波にノイズが乗り、ノイズが乗った状態で録音されてしまうこともあった。これは予想していなかったハプニングだった、それもまた生の音を使用していることによる「味」でもあり、歓迎される余白であった。

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