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滴るオーリーオーン

記録映像

展示概要

会期:2025.1.24-30
会場:テラス石森 大ホール

イベントサイト

作品解説

尾形のお人形様

 福島県田村市には3体の「お人形様」と呼ばれる厄除けの人形がある。江戸時代に悪病が流行した際、村への災厄を防ぐ魔よけとして立てられたとされ、その起源は不明である。毎年「お衣替え」と呼ばれる儀式で、面周りの髪や髭に当たる部分の杉の葉が交換される。木材で支柱が組まれ、竹籠が頭部を覆い、胴体はムシロで囲まれるなど、日常的な素材を用いてヒトガタの形が作られている。お人形様は田村市のシンボルとしてシールやキーホルダーにデザインされ、市産の米「むびょう」にもその面が印刷されるなど、地域住民に長く親しまれてきた。

リカちゃんキャッスル

 田村市はもともと田村郡であり、郡内で合併に参加しなかった小野町には「リカちゃんキャッスル」がある。これはタカラトミーが製造・販売する着せ替え人形リカちゃんの工場兼見学施設である。リカちゃんは1967年、日本の少女たちが親しみを持てるファッションドールとして誕生した。開発当初のデザインは、当時流行していた少女たちの憧れの顔立ちを反映し、その後も流行に合わせたマイナーチェンジが繰り返されている。素材には合成樹脂が用いられ、近代工業製品の象徴ともいえる。

このように田村エリアでは、用途は異なるが、木や竹、藁などの自然素材で作られるお人形様と、合成樹脂で作られるリカちゃんという二種類の人形がそれぞれ長年にわたり市民の生活に根付いてきた。お人形様が自然素材を用いることは、田村地域の豊かな森林資源と伝統的工芸の技術に根ざしており、これに対しリカちゃんは高度成形技術の進化と消費社会の象徴である。これらの人形は、各時代における産業と素材の結びつきを象徴しており、現代の産業や技術もまた、地域性を反映する新たな人形を生み出す可能性を示唆する。

ムシムシランドのカブトムシドーム

 近年、田村市は観光施設「ムシムシランド」に力を入れている。ここには昆虫標本を展示する「カブト屋敷」があり、「カブトムシドーム」では放し飼いのカブトムシと触れ合うことができる。常葉町で葉タバコの肥料として腐葉土が使われ、多くのカブトムシが育ったことをきっかけに、カブトムシを観光資源とした街おこしが始まった。産業と素材の結びつきは、お人形様やリカちゃんだけでなく、現在の観光業にも現れている。本作では、カブトムシの3Dスキャンデータを地域の象徴的な素材と捉え、バーチャル空間にヒトガタのアバターとして再現した。カブトムシを二足歩行させ、それを操作することを通じて擬人化が行われ、昆虫ではなく人間に近い馴染み深いキャラクターとして変化させる。

オリオンちゃん

 あぶくま洞の入口には「オリオンちゃん」という田村市のキャラクターが立つ。オリオン座をモチーフにしたこのキャラクターは、旧滝根町が町制施行60周年を記念して誕生した。滝根町は光害が少なく、一年中天の川が観測できるほど空気が澄んでいる。町内の星の村天文台には県内最大の望遠鏡とプラネタリウムが設置されており、鍾乳洞という「地底の宇宙」に隣接する天文台として「本物の宇宙」を楽しむことができる。

あぶくま洞

 鍾乳洞は、主成分が炭酸カルシウムとなる石灰岩が、二酸化炭素を含む弱酸性の雨水や地下水によって侵食され作られた洞窟である。また大量の炭酸カルシウムを含む水が洞窟内で空気に触れると、さまざまな洞窟生成物を作っていく。その時間的スケールで作られる様々な鍾乳石の形が宇宙を想像させる。

制作体験会の様子

 本作の制作にあたっては、地域の方々の協力を得て、カブトムシのアバターを操作してもらった。画面内でランダムに生成されるオブジェクトに触れてもらうよう操作する試作品を設計した。ここでの操作データを用いて人工知能が学習し、自動で動くエージェントを生成した。

展示の様子

 展示空間では、バーチャル空間のオブジェクトと現実空間の楽器が位置対応するように配置されている。この配置は、オリオン座の星々の位置を模倣したものである。ギリシャ神話では狩人オリオンにちなむが、日本では京都府綾部市や山梨県甲府市などで鼓星(つづみぼし)として知られていた。この歴史的背景から、星の位置に打楽器を配置し、星座と楽器を結びつけた。そしてこのオリオン座は滝根町における「本物の宇宙」であり、「地底の宇宙」である鍾乳洞と結びつけられる。

画面内で歩き回る二足歩行のカブトムシ

 人工知能によるエージェントは自動的に動き、オブジェクトに触れるたびにカウントが蓄積される。この動作は、鍾乳石が形成されていく過程を比喩している。オブジェクトには空から水滴が落ち、衝突時に自動演奏が行われる。カウントの多いオブジェクトほど頻繁に音が鳴るように設計されており、長い時間の中で形成される鍾乳石が、積み重ねられる音の断片と一致する。

振動スピーカーが取り付けられたカホン

 楽器には振動スピーカーが取り付けられており、振動スピーカーが楽器の音を再生し、無人でも演奏されているように聞こえる。画面内のオブジェクトにアバターが触れた場合と、水滴が落ちてきた場合に演奏されるようになっている。この方法により、バーチャル世界でのアバターの動きによる存在感と、鍾乳石に宿る時間を音楽的に表現している。

この作品はデジタル空間と現実空間を結合させ、カブトムシという存在がオリオン座の形を自由に歩き回り、その蓄積が鍾乳洞の形成のように音を奏でることで、現在の田村市を象徴する音楽を奏でる。

クレジット

操作データを協力していただいた方々(敬称略):

本作品の展示は、経済産業省「地域経済政策推進事業費補助金(映像芸術文化支援事業)」ハマカルアートプロジェクトの採択事業として運営されました。

3Dモデル使用:フィッシュアジア ffish.asia / floraZia.com