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放課後セッション(2025)

記録映像

展示

若手アーティスト支援プログラムVoyage歴代出展者展
日程:2025.5.3-25
会場:塩竈市杉村惇美術館 企画展示室1・2

作品解説

近年、人工知能(AI)による音楽生成は、主に音楽制作に特化した生成モデルを中心に発展してきました。本研究はこの潮流とは異なり、音楽用途ではないAIの行動を音響表現へと転用し、文化的かつノスタルジックな枠組みの中でインタラクティブなサウンド体験を創出することを目指しています。本作品は、AIによるゲームプレイを通じて音を生成し、鑑賞者の能動的な介入を促すシステムを提示します。

本作は、アタリ社が1972年に発表したアーケードゲーム『PONG』を音響インターフェースとして再構成したものです。Unityの機械学習ツールキットML-Agentsを使用して、AIエージェントにゲームプレイを自律学習させました。パドルの縦位置をリアルタイムで音高にマッピングすることでソニフィケーションを行い、振動スピーカーを取り付けたリコーダーを通じて音が再生されます。これにより、無人での楽器演奏のような印象を生み出します。鑑賞者は任意にボールを追加することができ、音の密度や展開に介入することが可能です。

技術的には、強化学習を用い、ラリーが持続するように報酬設計された環境で学習を行いました。エージェントは最大で3つ程度のボールに対応可能ですが、それ以上になると処理が追いつかず、多くのボールを見逃す結果となります。これにより、再生される音の数が減少し、音響の密度も変化します。

レトロゲームの視覚表現と、学校教育に結びついたリコーダーの音色を組み合わせることで、本作品は特に日本文化圏において「放課後」の記憶を喚起します。AIを単なる音楽生成装置ではなく、鑑賞者とともに音環境を形成する能動的な存在として位置づけ、博物館空間における共創的な音体験のあり方を再考する試みです。