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都市の変奏

解説動画

展示

会期:2022.07.9-14
時間:10:00-20:00(最終日のみ19:00まで)
会場:TURN ANOTHER ROUND(仙台フォーラス7階even内)

作品解説

本展示では変奏の形を共通してとった3つの作品を通して「演奏」を問い直す。「変奏」とは1つの主題(旋律)に対し装飾的な音を加えたり、リズムやハーモニーを変更することが従来的な意味である。この展示においてはその定義に転じて、オリジナルとなる素材に対して変化を加えることを変奏と捉えている。3つの作品は人間による演奏ではなく、それに対する「自動演奏」という形をとっている。自動演奏とは、オルゴール、自動オルガン、自動ピアノ、CDプレイヤーでの再生など、人の手を殆ど借りずに機械によって音楽を演奏することを指す。この自動演奏による変奏を通じて、演奏というのは何であるかという問いを示唆していく。

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自販機のゴミ箱に嵌められたプラスチックカップ

仙台のアーケードを映像と音で記録し、フィールドレコーディングされた音をヴァイオリンとスネアドラムの音に変換することで変奏している。楽器の演奏では主題をアレンジすることが変奏と言われる。例えば鳥の鳴き声を楽器によって演奏することも変奏と呼ぶことができるだろうし、車のエンジン音や人々の話し声を楽器で再現することもまたできるだろう。しかし後者の音は人間が楽器の演奏によってそれを再現することは技術的に難しい。本作ではフィールドレコーディングされたアーケードのサウンドスケープを、人工知能による音声処理技術を用いて楽器の音に変換することで変奏を実現している。映像と共に録音されたサウンドスケープは、ヴァイオリンとスネアドラムの音を事前に学習させた人工知能に入力され、楽器の音へと変換された音声データに変換される。楽器本体に振動スピーカーを取り付けて、その音声データを再生させることによって、楽器の周波数特性に共鳴させ音を奏でる。単にスピーカーから出てくる音を聞くのではなく、楽器本体に共鳴させることにより、まるで誰かが楽器を演奏しているかのように聞こえる。また風景音を実際の楽器で変奏した音は、人工知能技術と本作での振動スピーカーを用いた手法によって初めて聞けるようになったと言えるだろう。この新しい手法による自動演奏は、電子音楽的な手法による自動演奏音楽と、従来的な楽器によって演奏される音楽の融合であり、新しい形の演奏を提示する。

向こうから来た人とお互い避けるため反復横跳び

4台のディスプレイにて表示される、それぞれの再生時間が異なる短いクリップのループによってポリリズムを作り、常にリズムが変化し続ける変奏である。映像は仙台のアーケードに存在する画面の上下をセンターで区切るようなオブジェクトを撮影し、音はその場のサウンドスケープが録音されている。映像が切り替わるタイミングに短い電子音が鳴り、4台のディスプレイはそれぞれ映像の切り替え速度が異なるためポリリズムに聞こえる。ループの最後の長さはクリップによって前後の尺が調整されており、それによってループの再生が始まると、全体の電子音が異なるリズムを奏でるようになる。ディスプレイ1台だけに着目すると常に変わらないループ再生による自動演奏となるが、4台がズレを持ったまま再生することで、常に変化のある映像と音が生まれる。そのリズムと再生位置のランダム性によって、時々シンクロしたかのように見えることもある。固定されたメディアを並べることによって有機的な自動演奏を生み出す。

旅行者なのについつられて出る訛り

生命体によるリズムの交配のシミュレーションによる延々と変わり続ける演奏と、鑑賞者の音色パラメータ制御による変化によって変奏を行う。ディスプレイに表示された複数の白や色の付いた点は生命体を表している。各生命体は独自の演奏パターンと4つの16配列のパラメータを持っており、他の生命体と接触することによって、その半分の情報が交換される。生命体を音楽家に例えても良い。ある音楽家は1つのループ演奏を持っていて、他者とセッションすることによって相手の影響を受け、自分の演奏と相手の演奏を混ぜて新しい演奏を生み出す。そのように音楽が新しい音楽を生み出す過程をシミュレーションしたものが本作である。色の付いた4つの生命体はスピーカーと接続されており、4体の演奏情報が奏でられる。生命体の交配によってゆっくりと音楽が変奏されていくことが分かるだろう。他の2作品は固定されたループ(フィクストメディア)であるのに対し、本作はその場で常に変化し続けるジェネラティブな作品である。また本作はQRコードからアクセスすることで、音色のパラメータや演奏のスピードを変更することができるようになる。これは作品に他者の手が加わることによって行われる変奏であり、正解の形がない有機的に変化し続ける自動演奏である。

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3作品を通じて、仙台の中心地にあるフォーラス内での展示空間に、仙台のサウンドスケープをインストールしている。作品Bによるサウンドスケープにて街中を連想させる音を会場に鳴らし、作品Aの楽器による変奏という形でサウンドスケープを演奏している。作品Bは街中に流れる音楽のように和声感を持った電子音であり、人々がパラメータを変化させることによって手垢の付いた、人々によって変奏された音楽を表している。3作品のそれぞれが奏でる音、そしてフォーラス内で流れるBGMなどが騒々しく混ざり合うこのサウンドスケープは、仙台という都市の変奏である。